2014年7月24日木曜日

ウェーブレット変換による線の細い描写の実現

 
 写真画質における線の細い描写、それは高精細でありながら繊細な柔らかさ、あるいは細密なディティールの再現につながる。代表例を挙げるなら富士フィルムのXシリーズやペンタックスのエクストラシャープネスによる描写だろうか。もちろんレンズ、センサー、画像処理の総合的な性能による結果でもある。
 はて、ウェーブレット変換とは何かと言うと、画像処理においては周波数変換の一種(シャープネスの一種と言ってもここでは差し支えないだろう)である。写真においては天体写真において用いられることのある画像処理の手法である。今回はウェーブレット変換を用いることで線の細い描写を実現できないか、という趣向である。なお使用するソフトウェアも天体写真用だ。


 まず処理に用いるソフトウェアだが、フリーのウェーブレット変換が可能なソフトとしてお馴染みの”YIMG”を使用する。対応OSはWindows XP/Vista/7だ。ただし私の環境では8.1においても動作している。次にテスト画像だが、HDDを漁っていたらおあつらえ向きの東京駅のモノクロ写真が出てきた。そもそも傾いているとか写真としてはイマイチかもしれないが、今回のテスト画像としては結果が判りやすい写真である。
 さてここでYIMGにおけるウェーブレット変換の設定項目を説明すると、周波数帯域別に五つのパラメータを有しており、高周波帯から順に1(H)、2、3、4、5(L)となっている。1.0が初期値(効果なし)で、1.1以上はコントラストが上がり(強調)、0.9以下はコントラストが下がる(ぼかし)。


 では”線の細い描写”とはコントラスト的にどのようなものか、という点だが、Adobe CameraRAWの明瞭度を思い出してみよう。明瞭度を下げると徐々にソフトフォーカスのような描写に推移していくが、その途中で線が細く感じられることがあるかと思う。つまり局所的コントラストを弱めてあげればよい。ただし明瞭度パラメータは設定された周波数のある範囲全体を強めるか弱めるかというもので(そのような特性を持つと考えられるがあくまで推測の域は出ないことをお断りしておく)、特定の周波数帯に限っては弱めない、あるいはそこだけ強めるということはできない。
 そこでYIMGの周波数帯域別のパラメータである。結論から言ってしまうと、最も周波数の高い帯域の1(H)はそのままか強調で、2と3の帯域をコントラストを下げる方に振るのが良さそうである。なお、当然下げ過ぎればソフトフォーカスのような描写になり得るし、厳密なパラメータは写真によって異なるはずだ。まあ、いつまでもグダグダと書いてもしょうがないので論より証拠、画像を見てみよう。


 テストにはこの写真を使用する。処理の結果は赤で囲った時計の箇所を300%に拡大して示す。


▲オリジナル(処理なし)

▲処理方法A(バンド1のみ1.2)

▲処理方法B(バンド2と3を0.8)

▲処理方法C(バンド1を1.2、バンド2と3を0.8)

▲処理方法D(バンド1を1.1、バンド2と3を0.7)

 さてオリジナルはいいとして、まず処理A。バンド1のみ強調する、つまり最高域のコントラストのみ強める設定だ。オリジナルと比べて線が太ることはないが、細くなっているわけではない。あくまで強調している。次に処理B。中高域のコントラストを下げる設定である。コントラストを落としているので幾分眠く見えるが、文字盤のⅨとⅩのディティールの分離が良くなっている。目的の線が細い状態と言える。続いて処理C。処理AとBの組み合わせで、最高域を強調しつつ中高域は弱める設定。処理Bと同様ⅨとⅩのディティール再現が良いままに、エッジを強調したような印象だ。そして処理D。処理A~Cの結果から良さそうな値を選んでみた。結果は数値通り、処理Cを控えめに施したような描写である。


 ここまで見てきた結果では、確かに線の細い描写は実現しているように思える。ただし拡大率300%の話で、はたして写真全体ではどうなのか。その結果は以下に示そう。

▲オリジナル(処理なし)

▲処理済み(処理方法D使用)

 オリジナルと処理を施した写真を比べると、当然局所的なコントラストを落としているので力強い描写という点ではオリジナルが上と言えそうである。ただし処理済みの方が諧調性が良く、密な描写である。”線が細い描写”という今回の目的からすると処理を施した写真は成功だと言えそうである。もちろん建築物の写真としては力強さを優先した方が良いかもしれないが。
 また今回は最高域を強める処理をしているのだが、ウェーブレット変換は画像全体に適用される。そのためテスト画像のようなパンフォーカスの写真では効果的であっても、ボケなどを用いた写真では中高域を弱めるだけに留める方が処理による弊害が出にくいであろうと思われる。


▼参考・関連リンク
YIMG
YIMGによる画像処理 ウェーブレット変換
ウィキペディア ウェーブレット変換
 

0 件のコメント:

コメントを投稿